【要点解説】中国子会社への事後的な仕入れの値増し金が寄附金と認定された事例

最近、中国系の法人のお客さまからの税務相談が増えてきました。

今回は、裁決事例から、「中国子会社への事後的な仕入れの値増し金が寄附金と認定された事例」を取り上げ説明します。

当該裁決事例ではいくつかの争点があるのですが、以下では、わかりやすくするために主要な争点のみを記載しています。

なお、本件は中国子会社への支払いですが、仮に、これが中国親会社への支払いであっても、同様に寄附金認定される可能性がありますので留意が必要です。

 

事実関係

単純化した事実関係は次のとおり。

・日本法人は中国子会社との間で、事後的な仕入れの値増しに係る合意書や覚書を作成し、中国子会社へ送金(本件送金)を行った。それを事後的な仕入れの値増しとして損金の額に算入した。

・中国の外貨管理局により、値増し合意書による送金は不許可とされた。そこで、中国の外貨管理局の送金許可を得るために、日本法人と中国子会社との間で形式的に金銭消費貸借契約書を作成した。

 

課税当局は、貸付金であるため損金にはできないと更正処分を行った

課税当局は、本件送金は貸付金であるため損金にはできないものとして更正処分を行った。
以下は課税当局の主張である。
 

損金にできるか?

本件送金は、次の理由により、貸付金であるから損金の額には算入できない。

  1. 金銭消費貸借契約という法形式どおりの契約が成立していると認められるため、金銭消費貸借契約に基づき金銭の授受を行っていたと認められる。
  2. 日本法人と中国子会社との取引価額は毎年実績額を基に改定されていたのであるから、それとは別に取引価額を改定しなければならないとする合理的理由は認められない。

 

形式的に金銭消費貸借契約書を作成したにすぎないことについて、どのように考えるか?

仮に、本件値増し合意書による送金が中国の外貨管理局により不許可とされた事情があったとしても、値増しをする合理的な理由がない以上、値増し金とは認められない。

 

重加算税を賦課するのは適当か?

貸付金を商品仕入れ等として帳簿書類に虚偽記載しているので、日本法人による事実の隠蔽または仮装の行為があったというべきである。よって、重加算税を賦課することが適当である。

 

日本法人は、仕入れの値増しであり損金に算入されると主張

日本法人は、本件送金は仕入れの値増しであり損金に算入されるとして、処分の取消しを求めた。
以下は日本法人の主張である。
 

損金にできるか?

本件送金は、次の理由により、貸付金ではなく、仕入れに係る合理的な理由のある値増し金であるから、損金の額に算入される。

  1. 金銭消費貸借契約書を作成したのは、送金許可を得るために形式的に整えたものであり、貸付金の実態はない。
  2. これまで、日本法人と中国子会社との間では、実績原価に基づかずに仕切価格を決めていた。これにより中国子会社において資金不足となったため、事後的に実績原価を踏まえた価格に修正すべく両者間で値増しについて合意をして送金したものである。

 

寄附金に該当するか?

仮に、本件送金が経済的利益の無償供与等に該当したとしても、次の理由により、寄附金には該当しない。当初仕切り価格が不適切であったため、中国子会社は倒産が予想される状況となった。中国子会社が倒産した場合は、日本法人の存亡にも関わる。よって、本件送金は日本法人の利益を守るために送金したものである。したがって、合理的な経済目的に基づいて行ったものであり、寄附金には該当しない。

 

重加算税を賦課するのは適当か?

貸付金ではなく、中国子会社からの仕入れに係る合理的な理由のある値増し金である。このような認識の下で送金を行い、商品仕入勘定等に計上したのであるから、事実の隠蔽や仮装の行為はない。よって、重加算税を賦課することは適当ではない。

 

裁決の要旨

以下は裁決の要旨である。
 

課税当局の主張のとおり貸付金なのか?

日本法人と中国子会社が金銭消費貸借契約書を作成しているが、これは外貨管理局の許可を得て中国子会社に必要な資金を送付するためであり、形式的に金銭消費貸借契約書を作成したにすぎない。したがって、本件送金が貸付金であるとする課税当局の主張は採用できない。

 

日本法人の主張のとおり仕入れの値増し金なのか?

値増し合意書や覚書には過去の取引についての値増しであるとの記載がある。しかし、これらに記載された値増し金の算定根拠によれば、本件送金は、中国子会社の為替差損、諸経費の増加、裁判費用、建物の補修費および赤字補填のために行われたとみるのが相当であり、日本法人が資金不足に陥った当該子会社に対し、金銭の贈与(本件金銭贈与)を行ったものと認めるのが相当である。本件金銭贈与がなければ当該子会社が倒産する状況にあったとは認められないから、本件金銭贈与が当該子会社の倒産を防止するなどのためにやむを得ず行われたものとはいえない。また、合理的な再建計画に基づくものであるなど、本件金銭贈与をしたことについて、相当な理由があるとは認められない。したがって、本件金銭贈与の額は、国外関連者寄附金に該当し、その全額が損金に算入されない。

 

損金にできるか?

上述のとおり、国外関連者寄附金に該当し、全額が損金に算入されない。

 

重加算税を賦課するのは適当か?

日本法人は、中国の外貨管理局の許可を得て中国子会社に必要な資金を送付する目的で金銭消費貸借契約の形式を採用しているにすぎず、また、過去の取引の値増しを企図して一応の計算を行ったことが伺われ、事実の隠蔽または仮装の行為があったと認めるに足る証拠はない。

 

まとめ

  • 本件の裁決では、『課税当局による主張(「貸付金に該当する。仮装または隠蔽があり重加算税を賦課すべし」)は認められないが、日本法人による主張(「仕入れの値増し金であり損金算入できる」)も認められない。国外関連者への寄附金に該当する』となっています。
  • このように同一の取引でも、見方によっては、異なる課税関係となる恐れがあります。
  • 国外関連者との取引の妥当性は税務調査でも問題となりやすい部分です。契約書類等(本件でいえば値増し合意書や覚書)を作成しただけで安心することなく、自社の主張や経済合理性を十分に説明できる内容となっているかについて慎重に検討する必要があります。

著作権等・免責事項をご確認お願いします。

【参照裁決事例】
「子会社に対する仕入れの値増し金は当該子会社の資金不足を補うための資金供与としての寄附金であると認定した事例」国税不服審判所

 

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