外資系企業が日本子会社へ資金を投入する場合、税務上、いくつかの論点があります。
多くの場合、顧問税理士に相談しつつ、過少資本税制、過大支払利子税制、移転価格税制、均等割、外形標準課税、登録免許税、消費税の納税義務、留保金課税、中小法人・中小企業者への該当性、等について検討して、増資・貸付の金額・割合を決定すると思います。
この時、税務ではないためか、「会計監査の要否」について検討がもれているケースが見受けられます。
「会計監査の要否」は、会社への影響が大きいので留意が必要です。
会計監査が必要な外資系企業とは?
会計監査が必要なのは、上場している会社だけではありません。
株式会社の場合は、下記のいずれかに該当すると会計監査が必要となります。
1. 大会社(会社法328条1項、2項)
2. 監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社(会社法327条5項)
3. 定款で会計監査人の任意設置を行った会社(会社法326条2項)
※合同会社の場合は、会計監査人の設置義務はありません。
※詳細は、末尾の会社法の条文をご参照ください。
ここで、大会社とは、資本金5億円以上または負債総額200億円以上の株式会社をいいます(会社法2条6号)。
今回、注意いただきたいのは、上記1の大会社のケースとなります。
たとえば、顧問税理士から説明を受けた過少資本税制への対応として資本金を厚くしたことにより、資本金が5億円以上となり、想定外の会計監査が必要となってしまうようなケースです。
会計監査が必要となる時期については下記のとおりです。
たとえば、2020年3月期において資本金5億円未満かつ負債総額200億円未満の会社が、2021年3月期の貸借対照表において親会社からの増資により資本金が5億円以上となったとします。この場合、その2021年3月期の貸借対照表が承認・報告される2021年6月の定時株主総会で、2022年3月期より大会社に該当することが確定し、2022年3月期から会社法監査を受ける必要があります(会社法2条6号、24号)。
会社法上、外資系企業と日系企業は区別されていないので、外資系企業も対象に該当すれば、会社法監査を受ける必要があります。
なお、会社法上の会計監査の対象に当てはまらなくても、海外親会社が本国において会計監査対象である場合は、親会社における連結財務諸表作成のため、親会社の会計監査人の指示のもと、日本子会社においても会計監査が行われる場合があります。ただし、これは会社の意思決定とは関係なく決定されることであり、会社の意思決定(たとえば日本子会社の増資)の結果により、日本の会社法に基づき必要となりうる会社法監査とは異なります。
外資系企業で会計監査が必要となった場合の影響は?
会計監査報酬の支払が必要となる
会計監査は、通常、複数の公認会計士が業務を行い、作業工数も多いため、基本的に、税理士報酬より高額となります。また、外資系企業は、資料が英語であることや、英語でのコミュニケーションが要求されることが多いですが、そのような業務に習熟している公認会計士は少ないため、同じ規模の日系企業と比較して、監査報酬は高くなることが多いです。
会計監査人探しが難航する可能性がある
外資系企業では、各種資料・規定が英語であることや、英語でのコミュニケーションが要求されることも多いため、中小監査法人等では監査を引き受けないこともあります。大手監査法人に依頼した場合は、監査報酬が高額になります。また、大手監査法人においても、人手不足・働き方改革の状況下、監査報酬が(大手監査法人にとって)少額(たとえば、10百万円以下)な監査先の引き受けには消極的なこともあります。
結果として適切な会計監査人がすぐに見つからない可能性もあります。
会計監査対応の業務負担が大きい
これは外資系企業に限りませんが、会計監査では期中および期末において大量の資料提供と質問対応が求められます。
これに加えて、現金や受取手形、有価証券等の現物資産については実査、棚卸資産については立会、金融機関との取引や売掛金等については確認状の発送、代表取締役・監査役との面談等も行われますので、その準備も必要となります。
外資系企業が会計監査を受けるメリット
会計監査を受けることによるメリットもあります。
外資系企業の場合は、親会社は海外にあり子会社を常時管理・監督するのは難しく、言葉や文化の壁もあるため、日本子会社が適切な財務報告を行っているかどうかについて不安を抱いているケースが見受けられます。
この点、会計監査を受ければ、会計監査人が独立した立場から、「子会社が作成した財務報告の内容が会計の基準にそっているか、誤った記載がないか」について意見表明するため、親会社は安心することができます。また、子会社としても財務報告が適切であることを親会社に信じてもらいやすくなります。
外資系企業の中には、子会社の適切な管理のため、会計監査人の設置義務がなくても、自主的に会計監査を依頼している会社もあります。
上記のメリットを鑑み、会計監査を積極的に受けることは、コーポレートガバナンスを強化するうえで大変有益です。
一方、意図しないうちに会計監査を受けなければならない状況に陥るのは避ける必要があります。
まとめ
外資系企業が日本子会社へ資金を投入する際には、「会計監査の要否」も忘れずに検討することが望まれます。
参考法令
会社法
(大会社における監査役会等の設置義務)
第三百二十八条 大会社(公開会社でないもの、監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社を除く。)は、監査役会及び会計監査人を置かなければならない。
2 公開会社でない大会社は、会計監査人を置かなければならない。(取締役会等の設置義務等)
第三百二十七条
(略)
5 監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社は、会計監査人を置かなければならない。
(略)(株主総会以外の機関の設置)
第三百二十六条 株式会社には、一人又は二人以上の取締役を置かなければならない。
2 株式会社は、定款の定めによって、取締役会、会計参与、監査役、監査役会、会計監査人、監査等委員会又は指名委員会等を置くことができる。(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
(略)
六 大会社 次に掲げる要件のいずれかに該当する株式会社をいう。
イ 最終事業年度に係る貸借対照表(第四百三十九条前段に規定する場合にあっては、同条の規定により定時株主総会に報告された貸借対照表をいい、株式会社の成立後最初の定時株主総会までの間においては、第四百三十五条第一項の貸借対照表をいう。ロにおいて同じ。)に資本金として計上した額が五億円以上であること。
ロ 最終事業年度に係る貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が二百億円以上であること。
(略)
二十四 最終事業年度 各事業年度に係る第四百三十五条第二項に規定する計算書類につき第四百三十八条第二項の承認(第四百三十九条前段に規定する場合にあっては、第四百三十六条第三項の承認)を受けた場合における当該各事業年度のうち最も遅いものをいう。
(略)(計算書類等の作成及び保存)
第四百三十五条 株式会社は、法務省令で定めるところにより、その成立の日における貸借対照表を作成しなければならない。(計算書類等の監査等)
第四百三十六条 監査役設置会社(監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある株式会社を含み、会計監査人設置会社を除く。)においては、前条第二項の計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書は、法務省令で定めるところにより、監査役の監査を受けなければならない。
2 会計監査人設置会社においては、次の各号に掲げるものは、法務省令で定めるところにより、当該各号に定める者の監査を受けなければならない。
一 前条第二項の計算書類及びその附属明細書 監査役(監査等委員会設置会社にあっては監査等委員会、指名委員会等設置会社にあっては監査委員会)及び会計監査人
二 前条第二項の事業報告及びその附属明細書 監査役(監査等委員会設置会社にあっては監査等委員会、指名委員会等設置会社にあっては監査委員会)
3 取締役会設置会社においては、前条第二項の計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書(第一項又は前項の規定の適用がある場合にあっては、第一項又は前項の監査を受けたもの)は、取締役会の承認を受けなければならない。(計算書類等の株主への提供)
第四百三十七条 取締役会設置会社においては、取締役は、定時株主総会の招集の通知に際して、法務省令で定めるところにより、株主に対し、前条第三項の承認を受けた計算書類及び事業報告(同条第一項又は第二項の規定の適用がある場合にあっては、監査報告又は会計監査報告を含む。)を提供しなければならない。(計算書類等の定時株主総会への提出等)
第四百三十八条 次の各号に掲げる株式会社においては、取締役は、当該各号に定める計算書類及び事業報告を定時株主総会に提出し、又は提供しなければならない。
一 第四百三十六条第一項に規定する監査役設置会社(取締役会設置会社を除く。) 第四百三十六条第一項の監査を受けた計算書類及び事業報告
二 会計監査人設置会社(取締役会設置会社を除く。) 第四百三十六条第二項の監査を受けた計算書類及び事業報告
三 取締役会設置会社 第四百三十六条第三項の承認を受けた計算書類及び事業報告
四 前三号に掲げるもの以外の株式会社 第四百三十五条第二項の計算書類及び事業報告
2 前項の規定により提出され、又は提供された計算書類は、定時株主総会の承認を受けなければならない。
3 取締役は、第一項の規定により提出され、又は提供された事業報告の内容を定時株主総会に報告しなければならない。(会計監査人設置会社の特則)
第四百三十九条 会計監査人設置会社については、第四百三十六条第三項の承認を受けた計算書類が法令及び定款に従い株式会社の財産及び損益の状況を正しく表示しているものとして法務省令で定める要件に該当する場合には、前条第二項の規定は、適用しない。この場合においては、取締役は、当該計算書類の内容を定時株主総会に報告しなければならない。
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